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Tengyong's Taiwan Reports

No.9 (Aug. 10, 2004)  吃在台湾

山后民俗文化村。中国南方風の建築様式が保存されています。
北山洋楼跡。戦闘の砲弾跡が生々しく残っていますが、時間がなくてバスの中から建物の姿を見ただけでした。
8月初めに2泊3日の日程で、金門に行ってきました。ご存知のように、金門は大陸(中国)側の港湾都市・廈門からわずか数キロしか離れていない島々で、大陸と対峙する中華民国(台湾)側の最前線の地です。当然のことながら至るところに軍事基地が見られ、かつてはここを舞台に何度も激しい戦闘が繰り広げられましたが、近年は観光客に広く開放されています。外国人である私も、金門空港での身分証明書チェックの際、パスポートに中国のビザが貼り付けられていたせいか、係員のOKが出るまでに少し手間取りましたが、それ以外は何の問題もなく過ごしました。(台湾では内外人を問わず、国内線に乗るときはみな身分証明書が必要です。)ちなみに中華民国政府の支配下におかれている地域の中で、台湾省に属さないのは、この金門とさらに北にある馬祖列島(いずれも福建省)だけということになります。
金門は金門島、烈嶼島(小金門)、その他の小島からなっており、今回私たちはインターネットで探し出した旅行会社のパッケージツアーに参加し、金門・烈嶼の両島を駆け足でまわってきました。パック旅行を選択したのは、現地での交通の便がさほどよくなかったからですが、航空運賃・宿泊費・食事代・貸切バス代・ガイド代などの費用一切を、日本円にして2万円足らずの参加料金とチップでまかなうことができました。台湾の人びとにとってもなかなかおトクな料金設定であったようで、私たちのような夫婦同伴のほか、夏休み中の家族旅行と思しき子どもづれの一行も2組ほど参加していました。
金門の観光スポット(などと書くのはいささか不謹慎かも知れませんが……)の中心はもちろん戦跡地で、基地に隣接するようにつくられた各戦役の記念館のほか、「アーピンクー」*の掘った巨大な地下トンネルなどにも案内されました。そのほか中国南方系の伝統建築がよく保存されている山后民俗文化村も、私にとってはとても興味深いものでした。観光地めぐりの合間をぬって各種特産品の販売店にもかなり連れて行かれたのですが、試食・試飲はもちろん、砲弾の鋼鉄を利用した包丁の製造過程を見せてくれたり、店舗にちょっとした紹介展示のコーナーがあったりと、なかなか楽しませてくれました。この手の商売のコツを、台湾の人(と言うか、おそらく漢族)は本当によく心得ているようです。
*阿兵哥="兵士のお兄さん"程度の意。案内をしてくれた美しいガイドさんの話の中に、しばしば「アーピンクー」という言葉が出てきたのですが、何のことか分からなかったので、漢字を書いてもらいやっと意味を理解しました。
さてグルメが観光の目玉の一つである台湾に滞在しながら、これまで食べ物の話題を書かずにいました。以前台湾を訪れた際には、掛け値なく食べ物のおいしいところという印象があり、留学先に台湾を選んだ理由の中に、ここなら食事に苦労しないだろうという不純な期待が含まれていたことは否定しません。実際、日本人留学生の中から、食べ物について不満の声を聞くことはほとんどありませんし、一方で、台湾の方々から食事が口に合うかと聞かれたこともありません。(この点は韓国と大いに違っていて、かつて私が韓国に留学していたころは「韓国料理は食べられるか?」とたびたび尋ねられたものです。もちろん韓国料理の辛さを心配してくれてのことです。)
台湾の方々が自らの食文化の「国際性」に自信をもっておられるようなので書きづらかったのですが、結論的に言えば、残念ながら台湾の食事はどうも私の口には合わないようです。長期間滞在し、その土地の人と同じようなものを毎日食べ続けるとなると、おのずから短期間の旅行のときとは印象が違ってくるということでしょうか。地域研究をこころざし、その地域の人びとと率直に語り合うためには、言語能力のほかに、その土地の食べ物をそれなりに食べられなければならない、と私は考えています。人と人とが落ち着いた気分で語り合い、親密になる機会として、一緒に食事をすること以上によい場面はそう多くないと思うからです。
しかし台湾に関して言えば、残念ながら私は言語はもちろん、食事についても失格です。韓国の食には何の苦労もなく適応できたので、すぐ慣れるだろうと楽観していたのですが、就職し結婚して十数年が経つうちに嗜好が保守的になってしまったのでしょうか。ただ私たちとまったく違う食文化をもつインドネシアの若いクラスメートたちも、台湾の食には苦労していると話してくれ、年齢だけが理由ではなさそうだと、ひそかにほっとしたりもしました。
ご存じバナナの木です。害虫よけにビニールの袋がかぶせてあります。今年1月、台東県龍田村にて。
蓮霧(ワックスアップル)の木。7月、ハンセン氏病患者の収容施設・楽生療養院(台北県新荘市)にて。
台湾の食べ物でとくに困ったのは、その脂っこさです。中華料理ですから当たり前と言えば当たり前なのですが、もともと胃が弱く、脂っこいものが苦手なうえ、大衆食堂ではときどき動物性油脂を調理に使用している場合があり、どうしても喉を通らないということがありました。また食堂で出てくる米と魚があまり私の口に合わないことも、メニューの選択をずいぶん狭めています。台湾ではご飯の上におかずを載せて食べることが多いので、米の味そのものにはあまりこだわらないのかも知れません。また港町で生まれ、毎日のように新鮮な魚を食べて育った私は、魚の好みだけはどうも柔軟性に欠けるようです。(台湾の魚の名誉(?)のために付け加えると、私は関西人の大好物であるハモの刺身をおいしいと思ったことがありませんし、京都のニシンそばなどは端から食べる気がしません。)
そういうわけで外食をするときはどうしても麺類や餃子が中心になってしまうのですが、ありがたいことに水餃子はほとんど「はずれ」がないようです。日本ではあまり食べる機会がなく、こちらに来た当初は日本風の焼き餃子が恋しかったのですが、次第に餃子の一番おいしい食べ方は水餃子だと確信するようになりました。とくにひいきにしている軽食店のご夫妻とはすっかり馴染みになり、日本に帰ってあの店の水餃子が食べられなくなると寂しくなるねと、妻と話しているところです。
ちなみに台湾の「中食文化」はとても発達していて、テイクアウトのできない食堂はまずないと言っていいでしょう。昼食や夕食の時間になると、惣菜やご飯を使い捨ての紙の弁当箱に詰めてもらって食堂から持ち帰る光景があちこちで見られます。蛇足ですが、台北で多く見られる「自助餐」=バイキング形式の食堂では、ほとんどが使い捨ての紙食器を使用しており、飲食店関係で消費される使い捨て食器は膨大な量に上ると思われます。食習慣と簡便性から、このような形になっているのでしょうが、日本人の目から見ると資源の無駄遣いではないかと思わざるを得ません。環境対策からスーパーやコンビニでのポリ袋提供が有料化されるなど、日本が見習うべき政策も実施されているだけに残念です。
さて食事ではいささか苦労しているものの、それを補って余りある魅力をもつのがデザート類です。とくに果物のおいしさは抜群で、こちらで食べたライチやマンゴーのみずみずしさは感激ものでした。今回の滞在中に初めて知ったシャカという果物の溶けるような甘さにも、びっくりさせられました。亜熱帯とは言え、こうした果物の出荷時期は限られているものが多いので、1年近く滞在してようやく台湾フルーツの魅力の全体像がわかりかけてきたところです。そのほか「豆花」という一種の豆腐に、小豆や緑豆などを載せ、シロップをたっぷりかけていただくデザートも、私の大のお気に入りです。大豆でつくられていながらプリンのような舌触りで臭みもなく、すっかりはまってしまいました。とくに甘党というわけでもないのですが、こちらに来てからは1日に1回はデザートを食べないと、何となく不満に思うようになってしまいました。
台湾の夏は確かに陽射しが厳しいのですが、調べてみると8月の最高気温の平均は、むしろ東京のほうが高いようです。いつも軽装で、汗をしっかりかいてはさっとシャワーで洗い落としているせいか、日本にいるときよりもむしろ快適な夏を過ごしているような気がします。食べ物も油断するとすぐ腐ってしまうので用心を怠ってはなりませんが、一方で新鮮なフルーツをたっぷり盛りつけたカキ氷は夏の台湾ならではの贅沢な楽しみです。
滞在期間もあと2カ月を切りました。暑さに負けずにしっかり食べて、何とか最後まで健康に過ごしたいものです。